東芝エレベータ株式会社様
インタビュー概要
日時: 2021年4月26日(月) オンラインにてインタビュー実施 (役職はインタビュー当時)
東芝エレベータ株式会社様 : 代表取締役社長 柳瀬悟郎様、取締役常務 杉村哲夫様
EQパートナーズ株式会社 : 代表取締役社長 安部哲也、コーディネーター 七字麗奈
・重要性を増す経営幹部研修
・研修前後の受講者の行動変容
・経営幹部研修におけるオンラインの有効性
・これから求められる経営人材像
・研修ご担当者様コメント
・東芝エレベータ株式会社について
・研修概要と講師陣
・講師からのコメント
東芝エレベータ株式会社様 経営幹部(常務・取締役・事業部長など)18名様を対象とした経営幹部研修を全9回、2020年10月から2021年2月まで4ヶ月にわたって実施させていただきました。
このたび、代表取締役社長 柳瀬悟郎様と、取締役常務 杉村哲夫様に、経営幹部研修開催の背景やその後の変化についてお話を伺いました。
【Q(安部)】まず初めに、今回、経営幹部研修をご依頼いただいた背景やEQパートナーズをお選びいただいた理由についてお聞かせください。
【杉村様】2019年度の全社従業員意識調査の結果について、全体的には良かったものの部門長に対する評価が下がっていました。
倫理性やイノベーション、生産的な業務環境、などというカテゴリーにも課題が見えたのですが、一般社員にとって日常業務での関わりが多いのは部門長であることから、この層の影響が非常に大きいと考えました。
また、経営幹部層を対象に実施している360度サーベイ調査でも、組織化力・影響力・環境変化への対応力、などの項目が、本人も上司も評価が低いという結果もあり、共通した課題があると感じました。これまで比較的安定した状況で事業を成長させてきているものの、これからの変化にどう対応していくかを考慮すると、経営幹部の意識改革が必要だと思いました。
【柳瀬様】背景となる要素はたくさんありますが、大きく3つ挙げたいと思います。
1つめは、そもそも会社は人の集まりであり、会社が継続的に発展するためには人が発展していかなければならないということです。例えば具体的に言うと、いま自分が就いているポジションの後任には、自分より優秀な人が就かなければ会社は発展しないということです。そのため「人」の育成が会社の持続的な成長に繋がると考えています。
2つめは、新入社員を含む一般の社員が日々を過ごすことになる「職場」の雰囲気は、課長によって決まるということです。そしてその課長のことを指導するのは、その上の部長ということです。そして、そもそも部長が課長の育成を意識しているかどうか、部長を指導する立場の経営幹部たちはそのことを意識して見ているのかという疑問がありました。もちろん若い世代など「部下」たちを直接育成するという方法もありますが、やはり部長や課長が何をやっているのか、どういう方向に向かっているのか、というのを部下たちも見ているわけです。
3つめは、これからの企業は社会に貢献しなければ存続が危うくなるということを、経営層が理解する必要があるということです。少なくとも、これからどう貢献していくのかを考えていかなければならないということを、経営層の共通の課題とする必要がありました。
【Q】部課長に問題があるとすれば、その層に対する研修を実施する企業が多い中で、経営幹部(取締役・事業部長層)に対しての教育が必要と思われる理由をもう少しお聞かせいただけますか?
【柳瀬様】特に日本企業では、経営幹部にもなれば教育はもういらないだろうと考えていることが多いかもしれませんね。でも、何事も上の立場の人が率先垂範することが必要です。 部下に指示を出すことはできても、自分ができていない経営幹部も多い。もし部課長ができていないのだとすれば、やはり経営幹部ができていないということなのだと認識しています。経営幹部の次の世代である部長たちが課題を認識できているか、リーダーシップを発揮できているか、悩んでいる時に育成してステップアップさせることができるのか、その雰囲気を醸成できているのか。単に部課長だけを教育しても、経営幹部がその基盤を作っていなければ、組織の中で活かされないことになってしまいます。だからこそ、経営幹部が理解し実践していることが重要になってきます。つまり、もし経営幹部がそれをできていないということであれば、私自身ができていないということなのかもしれませんが(笑)。
【Q】杉村様は同研修に受講者としても参加されています。この研修の良かった点はどのようなところですか?
【杉村様】まず初めにミッション(経営理念)の共有からスタートしたことは良かったですね。経営幹部の間で、ミッション(経営理念)に対しての共通認識ができました。研修の終了直後に柳瀬さんからミッション(経営理念)についての話をしていただく機会もあり、研修の時期やタイミングも良かったと思います。事前にEQパートナーズと課題感を共有していたため、効果的なプログラム構成にしていただけたのだと感謝しています。強いて言えばひとつひとつの議論にもっと時間をかけられればなお良かったかもしれませんが、4ヶ月にわたって全9回(1回あたり4時間)とかなりの時間を投入し、多岐にわたる内容を盛り込んでいただいたことで、非常に満足度の高いものになりました。
【Q】ほかの受講者からの反響はいかがでしたか?
【杉村様】ミッション(経営理念)の共通認識ができたこと、それを共通の言葉にして落とし込んでいくことの重要性を感じることができたという感想は多く聞こえてきました。弊社はこれまでどちらかというと安定志向だったと思うのですが、「両利きの経営 知の深化と探索」という講義を受け、やはり新たな変革を起こしていかなければならないのだということが、実感できたことも良かったと思います。
【Q】同経営幹部研修後、受講者に変化を感じられることはありますか?
【柳瀬様】まず日々の会話や会議の中で感じることは、私のコメントの主旨を確認するための質問や理解不足が減ったということです。以前は私のコメントに対する反論も多かったのですが、研修を通じて共通認識ができたことで、私の意図を理解してもらえるようになったと感じます。意見や発言も経営者の視点になってきたと感じます。
昇降機メーカーとして、“安心安全”はもちろん外せない要素ですが、その先を目指していかなければならないと、ミッション(経営理念)に合わせて意思決定していこう、ベンチャースピリットを思い出そう、という機運になっています。同じ方向を目指して議論が進んでいると実感します。
【Q】研修の背景となった課題のひとつとして、受講者である取締役や事業部長の部下である部課長への関わりを挙げていましたが、受講後の変化はありましたか?
【杉村様】:研修後のアンケートでは、特に、会社の経営方針について、どうすれば従業員目線でも理解できるかを意識して伝えていきたいという声がたくさん出ていました。また、研修で学んだリーダーシップを実践することで、よりよい組織づくりを意識していきたいという声もありました。
【柳瀬様】これまであまり本を読まなかった人が、本を読んでその内容に基づいて部下にアドバイスするようになったという話も聞いています。それから、これまでは他部門のことにあまり関心を持たなかったのが、経営幹部間で意見交換を行うようになったようです。これは、会社としての考え方の基盤が揃ったことで、他の部門に対しても口を出しやすくなったということですね。これが会社全体に広がっていくと、さらに発展していけるのではないかと思います。
【Q】全9回オンラインで開催されましたが、オンライン研修のメリットとデメリットについて教えてください。
【杉村様】一番のメリットは物理的な移動が不要だったことです。多忙な経営幹部たちにとっては、移動時間がないというメリットだけでなく、前後の時間も効率的に使えたのは大きかったと思います。また、オンライン研修ならではのチャットなどでのコミュニケーションも有効だったと感じます。やむを得ず欠席した場合にあとで録画を視聴できたことや、オンライン環境ならではの集中力もメリットですね。一方で、やはり集合研修の方が話しやすかったのではないかという意見もあり、強いて言えばこれがデメリットだったかもしれません。しかしながら、忙しい経営幹部の研修としては、オンライン研修のメリットの方が多かったと考えています。
【Q】新型コロナウィルス収束後に研修の形態はどのような変化があるとイメージしていますか?オンラインと対面の割合などについて、お考えをお聞かせください。
【杉村様】経営者講話・議論など、対面での講義の方が迫力や雰囲気の伝わるものもあると思うので、内容によって使い分けることが効果的だと思います。
【柳瀬様】たしかに講演や経験談はリアルの方が想いを共有しやすいですよね。話の迫力や、畳みかけるように次々と質問が出たりするような場面はリアルならではだと思います。メリットとしては、オンラインだからこその頻度でグループディスカッションができたという話もあります。研修でのグループ発表準備のミーティングを業務の隙間時間で30分実施するなど、研修日以外でもオンラインを活用したグループワークができたと思います。感染リスクの低減後もオンラインと集合教育を併用することで、研修の効果がより高くなると感じています。
【Q】今後、経営層や管理職にはどのようなスキルが必要となるか、これからEQパートナーズが教育研修を行っていく上でのアドバイスをお願いします。
【杉村様】「両利き」といわれるような経営をしていくためには情報とスキルが必要だと感じています。これまでも業界内の閉じられた世界の中での知識をもっている人材はすごく多いのですが、今後は業界外の情報やDXなどのテクノロジーに関してもアンテナを高くしなければならないと思います。どうしても業界や領域が偏りがちなので、外部から見て必要であろう情報やスキルについて提案していただけると非常にありがたいですね。
【柳瀬様】「情報」という話になると、適切かどうかということも重要かもしれませんね。具体的に言うと、20年前の成功体験を聞いても意味がないということです。10年前の話でもあまり役に立たないかもしれない。いま活躍している経営者であれば、さまざまなタイプの人から話を聞くのは参考になるかもしれません。成功体験を話したがる経営者は多いですが、成功というのは環境やその時の状況に依存する部分が否めませんから、過去の話を聞いたところで再現性が無いわけです。そういう意味では、失敗した話は経営者として参考になりますね。情報の集め方が悪かったのか、社会とのコミュニケーションがうまくいかなかったとか、博打を打って失敗しました、という話でもいいと思います。
「失敗」という観点でひとつ事例を挙げると、画期的な家電製品の特許を出していたが製品化しなかった事例があります。時間が経って他社が製品化した後になって、東芝が基本特許を出していて、しかも期限が切れているといったことがあった。ある企業はうまく製品化して莫大な利益を上げているというのに、特許を取得していた東芝はどうしてそれができなかったのか。そのときになぜそのような意思決定になってしまったのか。これを今から振り返ることには意味があるかもしれないと思います。
【Q】今後どのような人材を育成していきたいとお考えですか?
【杉村様】これからは自分で課題意識を持てるかどうかが重要だと思います。これまでは組織から与えられた役割を果たすという認識で良かったかもしれませんが、管理職の役割を定義し直す必要があると考えています。管理職というのは、変化に対応することはもちろん、それをリードしていくことが求められる役割です。全体最適や巻き込み力といった力が必要ではないでしょうか。
【柳瀬様】どういう教育をやるかというよりも、やりっぱなしにならないことが必要だと思います。教育のあり方というか、何のための教育なのか、その研修によってどういう教育をしたいのか、ということを考えていかなくてはならないと思います。やはり受講者が目的を理解していなければ、本当の意味での教育とは言えません。ですから、管理職には、教育や研修の意義などを部下に伝えていく役割もあるということです。 また、我々は、昇降機メーカーの中では後発組でありチャレンジャーであるということを忘れてはいけないと思っています。安定した企業だと思っている幹部も多いですが、我々は追いかけている立場ですから、マネジメント力(管理力)よりもリーダーシップ(変革力)を発揮してほしいです。外部環境に合わせるのは「二流」、先読みすることができれば「一流」と言えるかもしれませんが、「超一流」となるためには環境変化を起こす立場でなければならないのです。ですから、「超一流」を目指してミッション(経営理念)に合わせたリーダーシップを発揮してほしいと考えています。ミッションやビジョンを伝えることはできるが、パッションを伝えることはできない。ここを教育することは難しいですが、急激に伸びる会社には、やはり経営者の情熱があるのだと思います。人事評価制度とも連動することで、失敗をただ恐れるのではなく、健全な恐れを持ってチャレンジできるような組織を目指していきたいと考えています。
EQパートナーズ安部:今回はたいへん貴重な機会を誠にありがとうございました。御社のますますのご発展を心より祈念申し上げます。
同研修の運営全般をご担当いただいた、東芝ビジネスエキスパート株式会社 人材開発事業部 人材・組織開発ソリューション部 人材開発ソリューション担当 グループ長 山口克宏様のコメントをいただきました。
【Q1】東芝エレベータ社の経営幹部研修の特徴や良かった点、改善点などを教えてください。
【山口様】社長経験者や学識者による講義、特に講話については受講された方々が大変興味を持って熱心に聞いておられた点やその内容に感銘を受けた方が多数いらっしゃった点が他の幹部向け研修に比べ顕著に見受けられ大変良かったと思いました。一方で、4時間という短時間での講義なので駆け足過ぎて知識付与のみに終わってしまった講義では参加者間でのグループ討議もなく、物足りない感触が一部の方で見受けられました。
【Q2】経営幹部研修のあるべき姿など、ご意見お願いします。
【山口様】集合研修が再開できない現時点においては、今回のような4時間単位でのオンライン研修は最善の方法と思います。今後すべての研修が集合とならなくても、オンラインで十分な研修効果が望めるものはそのままオンラインとし、やはり集合研修でないと十分な教育効果が得られない講座は集合に切り替えるハイブリッド研修が望ましい形と考えます。具体的には、今回の最終課題のような、グループの共同作業にてアウトプットを出す研修や対面の方がより効果が増すので、語り手の熱量が伝わる講話などは集合で開催すべきと思います。
それと、研修で作成した課題を単なる研修での一成果物とせず、実務にフィードバックできるような仕組みを考えていきたいと思っています。
- 1942年創業
- 代表取締役社長 柳瀬 悟郎
- 資本金 214億772万8千円
- 社員数 国内単独:5,350名(2020年3月)
- 実績: TAIPEI101、東京スカイツリー、あべのハルカスをはじめとする国内外エレベータなどを納入している
- HP: https://www.toshiba-elevator.co.jp/elv/index_j.html
主力製品のエレベータ
エスカレーター
同社の全社従業員意識調査の結果に基づき、同社経営幹部層の強みと弱みを分析し、強化するための研修全体設計を行いました。これからの経営者に求められる経営・ビジネス マインド&スキルを主として下記の内容で実施しました。
- 元スターバックスジャパンCEOの岩田松雄氏、元パナソニック 代表取締役専務の榎戸康二氏をはじめとする経営者の講演、議論による経営者マインド・経営者思考の学習
- 神戸大学・忽那憲治教授、中央大学・木村剛准教授、学習院大学・深見嘉明准教授らによる最先端のアカデミック理論に基づく経営知識の学習
- 研修内容を総括するための同社の2030年・2040年に向けてのミッション・ビジョン・戦略の構築
第1回
経営とは/経営理念と組織文化/経営者マインド
講師:岩田松雄(元スターバックスジャパンCEO)
安部哲也(EQパートナーズ代表・立教大学教授)
第2回
経営戦略/戦略的思考
講師:木村剛(中央大学 准教授)
第3回
リーダーシップ 部下・組織育成力、組織人事
講師:安部哲也、中村好伸(EQパートナーズ執行役員/東北大学講師)
第4回
DX&CX(デジタルトランスフォーメーション)
講師:深見嘉明(学習院大学 准教授)
第5回
経営者講演(グローバル経営戦略・経営者のあり方)
講師:榎戸康二(元パナソニック代表取締役専務)
第6回
イノベーション発想力 「両利きの経営」
講師:忽那憲治(神戸大学 教授)
第7回
経営者のための財務会計・投資価値判断
講師:下川智広(立教大学 教授)
第8回
中間発表 リーダーシップ部下・組織育成力
講師:安部哲也、中村好伸、稲田知己(BBT大学院講師)
第9回:最終発表決意表明・質疑応答・フィードバック
講師:岩田・安部・中村・稲田
講師からのコメント
ご多忙な経営幹部の方々に4か月間で全9回の研修をご受講いただきました。各講師の講義とディスカッションにたいへん積極的にご参加いただきました。最終発表課題である“2030年・2040年の東芝エレベータのビジョン・戦略”に関しては、各グループとも、既存の昇降機事業の枠組みだけにとらわれず東芝グループのビル・インフラ事業全体を経営的に考察した、夢のある・大胆な事業プランを発表いただきました。この研修の内容を経営に生かしていただき、みなさまのご活躍とまた会社のますますのご発展を心より祈念申し上げます。
コースディレクター&リーダーシップ担当
EQパートナーズ株式会社 代表取締役社長・立教大学ビジネススクール教授
安部哲也