コロナ禍と五方良しの経営の実践について
(安部哲也)
人を大切にする経営学会 メールマガジン第298号に、弊社代表の安部哲也が寄稿いたしました。その内容をご紹介いたします。
コロナ禍と五方良しの経営の実践について
2019年11月に中国から発生した新型コロナウィルスは、日本、韓国を含むアジア
のみならず、欧米、アフリカ、中近東など全世界の人々の生命、健康、生活など
大きな影響を与えている。企業活動においても、観光業、輸送業、飲食業、
サービス業のみならず、メーカー、流通、貿易などの企業への影響は極めて大きい。
このような状況下、人を大切にする経営学会で提唱されている「五方良しの経営」
1)社員とその家族 2)社外社員とその家族 3)現在顧客と未来顧客
4)障がい者や高齢者などの社会的弱者 5)出資者・支援者のしあわせづくり
は各企業でどのように実践されているのであろうか。
下記オンラインアンケート調査を実施した。
・実施時期: 2020年7月28日~8月20日
・オンライン形式にて実施。
・有効回答者数: 18名(18社):「人を大切にする経営学会」会員企業は含まず。
質問項目は大きく5項目、主となる質問の結果は下記のとおりである。
1)自社の社員やその家族の健康、安全に対しては配慮している企業が多い(肯定的な回答は83%)。
しかしながら、
2)社外社員(仕入れ先など)とその家族に対して、健康、安全に配慮している
かどうかについては減ってくる(肯定的な回答は50%)。
また、
3)現在顧客と未来顧客に対しては、「現在顧客に対して、商品やサービスの
低下や納期遅れなどを起こさず、また未来顧客に対しても、継続的にサービスを提供しているか」
という点に関しては、全体の39%しかできていない。
4)障がい者や高齢者など社会的弱者に対する健康、安全対策の配慮に関して、
肯定的な回答は64%であった。
5)「新型コロナ対策で、十分な経営的措置(方針、戦略、行動など)をとっているか」
に対しては、86%が肯定的な内容であった。
この結果から、コロナ禍において、社員やその家族に対しては、比較的、安全と
健康の対策が行われているものの、社外社員(仕入れ先など)に対してはその比率が
下がっている。
このことは、仕入れ先などの取引先を社員と同様に「社外社員」として、対応する
考え方やスタンスがまだ一般には浸透していないことが一つの原因と考えられる。
また、コロナ禍での顧客に対する商品、サービスの低下も懸念される。コロナの
影響などにより顧客に対する商品、サービスが低下すれば、顧客を大切にしていない
ということになり、結果、売上、利益の低下を招き、社員、社外社員、社会的弱者、
株主の幸せ実現にも影響が出てくる可能性がある。
第10回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞受賞の長坂養蜂場では、
コロナ禍で主要店舗クローズ時、オンラインでご注文いただいたお客様には、
商品に地元のみかんの花をそえてお送りするなど、コロナ禍の状況下でも一層、
現在顧客と未来顧客を大切にし、心のこもったサービスを提供している。
また、人を大切にする経営学会会員の伊那食品工業(総務人事部次長 吉川明様)
へのインタビュー調査(2020年9月1日)では、大項目5問中5問について、
「できている」との回答であった。
例えば、「ゴールデンウィーク中は、経営的に重要な稼ぎ時ではあるが売店は
あえて(社員、お客様の安全、健康のため)クローズした。」とのことである。
「コロナ以前から極端な効率経営を求めず、農業生産・加工・販売、食品製造
・販売(通信販売を含む)、サービス業(飲食、物販など)をバランスよく
事業化していた(多角化経営)ことによりコロナによる自粛期間も売り上げ
減少はあったものの世間ほどの減少率までは至っていない」とのこと。
短期の売上、利益を重視し、極端な効率経営(集中と選択)を行わず、将来
どのような事態が起こっても、社員とその家族を守る(大切にする)ことを
はじめとする「五方良しの経営」を実践することの重要性を再認識させられる。
巣ごもり需要を見据えた新規商品開発を行うなど、ピンチをチャンスに変える
取り組みも行われている
また、伊那食品工業では「コロナであっても、コロナでなくとも、経営理念
(いい会社を作りましょう!)を中心に、遠く(5-10年後)を見据えることと、
目先の実践を行っている」とのことである。
正しい経営理念を中心とした経営の重要性がうかがえる。
【まとめ】
1)コロナのような経営的な危機状況においては、常日頃から「五方良しの経営」を
実践できているかかが、重要になってくる。
2)経営理念などの基軸はぶれず、戦略、戦術、対処法などはコロナなどの状況に
合わせ、迅速に変化させていくことが重要である。
3)経営は常に短期と長期のバランスであり、短期的な利益のみに走らず、いかなる
状況でも「五方良しの経営」が継続できるようにすべきである
コロナのような経営危機状況において、「五方良しの経営」の真価が問われ、
むしろこの危機を機会としてとらえ、さらに成長、発展していくことが、真の
「人を大切にする経営」のあり方ではないかと考える。
以上
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授
EQパートナーズ株式会社 代表取締役社長
安部哲也
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