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「すぐに答えを出さない力」が組織を強くする いま注目される「ネガティブ・ケイパビリティ」(中村好伸)

近年、人財育成やリーダーシップの分野で「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」という言葉が注目されています。

直訳すると「消極的な能力」と誤解されそうですが、その意味は全く異なります。

ネガティブ・ケイパビリティとは、「答えが見つからない状況を受け入れ、不確実な状態に耐えながら考え続ける力」のことです。この概念は19世紀の英国の詩人ジョン・キーツによって提唱され、その後、精神分析家ウィルフレッド・ビオンによって再評価され、現在では経営学や組織論の分野でも注目されています。

従来のビジネスでは、リーダーには迅速な意思決定と問題解決能力が求められてきました。明確な目標を設定し、最短距離で成果を出す「ポジティブ・ケイパビリティ」は今でも重要です。

しかし、現在の経営環境は従来とは大きく変化しています。

かつてはVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と言われましたが、最近ではさらに一歩進んだ「BANI」という概念が提唱されています。BANIは「脆さ(Brittle)」「不安(Anxious)」「非線形(Non-linear)」「不可解(Incomprehensible)」を表し、未来予測そのものが難しい世界を意味しています。

このような環境では、「すぐ答えを出すこと」が必ずしも正解ではありません

例えば、新規事業への投資判断、生成AIへの対応、人財制度改革、多様な働き方への対応など、正解が存在しないテーマが増えています。

このような課題に対して拙速に結論を出すと、かえって組織を誤った方向へ導く可能性があります。

だからこそ、「すぐ決める」のではなく、現場の声を聴き、「十分に考え続ける」という姿勢が重要になります。

もちろん、ネガティブ・ケイパビリティは「決断しないこと」ではありません。

緊急時には迅速な判断が必要ですし、営業やプロジェクトではスピードが競争力になります。重要なのは、「すぐ決めるべき問題」と「熟考すべき問題」を見極めることです。ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティを状況に応じて使い分けることが、これからのリーダーには求められます。

また、この考え方は人財育成にも大きな示唆を与えます。

部下が期待どおりに成長しないとき、すぐに結論を出して「あの人は向いていない」と判断してしまえば、成長の機会を失わせることになります。時には本人を信じ、試行錯誤を見守りながら、必要な支援を続ける姿勢もリーダーの重要な役割です。

さらに、多様性の高い組織では、異なる価値観や意見がぶつかることは避けられません。しかし、対立を急いで収束させるのではなく、多様な意見を十分に議論し、熟成させることで、より創造的な解決策が生まれることが少なくありません。ネガティブ・ケイパビリティは、こうしたインクルーシブな組織づくりにも欠かせない能力と言えるでしょう。

変化が激しい時代だからこそ、「決断の速さ」だけではなく、「答えの出ない状況に耐える力」が企業の競争力を左右する時代になっています。

私たちは、「すぐに答えを出せる人」だけでなく、「答えがない問いを考え続けられる人」を育てていく必要があります。

ネガティブ・ケイパビリティとは、問題を放置することではありません。不確実性を受け入れながら本質を見極め、より良い意思決定へとつなげるための「成熟した思考力」です。

これからのリーダーには、決断する勇気と同じくらい、「あえて結論を急がない勇気」が求められているのではないでしょうか。


ネガティブ・ケイパビリティを育てるリーダー育成とは

では、このような能力はどのように育成すればよいのでしょうか。

残念ながら、ネガティブ・ケイパビリティは講義を一度聞いただけで身につく能力ではありません。知識を教える「ティーチング」よりも、正解のない問いについて考え続ける経験を積む「ラーニング」が重要になります。

従来の管理職研修では、ケーススタディの最後には必ず「正解」や「模範解答」が用意されていました。しかし、現代の経営課題には唯一の正解が存在しません。生成AIへの対応、人財不足、多様性のマネジメント、グローバル経営など、多くのテーマは「最適解」を探し続ける営みそのものが重要になっています。

そのため、これからのリーダー育成では、あえて正解のないケースを用い、「あなたならどう考えるか」「なぜその結論に至ったのか」を参加者同士で対話し、多様な価値観に触れながら思考を深める学習が有効です。

また、答えを急がず、相手の考えを最後まで聴く「対話力」、異なる意見を歓迎する「心理的安全性」の醸成、そして短期的な成果だけでなく部下の成長を長期的に見守るコーチングも重要な要素になります。

言い換えれば、これからのリーダー育成は、「正解を教える研修」から「問いを育てる研修」への転換が求められているのです。 EQパートナーズでは、「答えを教える研修」から参加者自ら「問いを育てる研修」への転換を掲げています。参加者が自ら問いを立て、多様な意見を受け止めながら本質を見極め、最適解を導き出す力を養うこと。それこそが、不確実性の高い時代を切り拓くリーダー育成であり、人的資本経営を支える真の競争力につながると考えています。

EQパートナーズのリーダー育成事例についてはこちらをご覧ください。

EQパートナーズ株式会社 執行役員・エグゼクティブ・コンサルタント・講師 中村好伸

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