教育投資とROIメソッド―日本と世界の企業の教育投資額の差とその理由・対策―(安部哲也)
日本企業の教育投資は、世界水準と大きな差がある
企業の教育投資は、将来の競争力を左右する重要な経営テーマです。
しかし、日本企業の教育投資額は、欧米企業と比較して依然として低い水準にあります。
ATD(Association for Talent Development)「State of the Industry 2024」によれば、調査対象企業における従業員1人当たりの年間直接学習支出は、2023年で平均1,283ドル($1=155円換算で198,865円)。一方、産労総合研究所「2024年度 教育研修費用の実態調査」によると、日本企業の従業員1人当たり教育研修費用は34,606円となっています。
為替レートにもよりますが、単純比較では、欧米企業は日本企業の3-5倍の教育投資を行っています。 もちろん、為替レートの影響や各国で賃金水準や制度、調査対象は異なるため単純比較には注意が必要です。しかし、日本企業の教育投資が国際的に見て十分とは言い難いこと、そして人的資本経営が重視される現在、人財育成への投資強化が求められていることは間違いありません。
【参考:年間教育投資額(社員一人当たり)】
| 国 | 年間教育投資額(1人あたり) | 日本比 | 出典など |
| アメリカ | 約17〜20万円($1,200〜1,300) | 約5〜6倍 | ATD「State of the Industry 2024」 |
| イギリス | 約11〜17万円($800〜1,200) | 約3〜5倍 | 【参考値】ATD国際平均、CEDEFOP・Eurostatデータ |
| シンガポール | 約7〜14万円($500〜1,000) | 約2〜4倍 | 【参考値】HR Singapore企業の年間研修投資より |
| 日本 | 約3.5万円 | 基準(1倍) | 産労総合研究所「教育研修費用の実態調査」34,606円/人) |
なぜ日本企業は、人に投資しないのか?
背景には、現在の日本型経営の構造があると考えます。
【1.OJT依存文化】
日本企業では、「仕事は仕事をしながら覚えるもの」という文化が根強くあります。
もちろんOJTは重要です。しかし、OJTだけでは限界があります。
ロバート・カッツのスキルモデルで言えば、テクニカルスキル(実務スキル)はOJTでも育成可能ですが、ヒューマンスキル(対人能力)やコンセプチュアルスキル(構想力・戦略思考)は、体系的な学習機会がなければ身につきにくい側面があります。
特に、管理職・経営層に求められる「複雑な課題を構造化し、意思決定する力」は、日常業務だけで自然に習得できるものではありません。
【2.メンバーシップ型雇用の影響】
日本企業では、終身雇用・年功序列を前提としたメンバーシップ型雇用の影響が今も残っています。
その結果、
・スキルを高めなくても年次で昇進しやすい
・高い専門性を持っていても若手は評価されにくい
という構造が生まれやすくなります。
一方、海外ではジョブ型に近い雇用環境の企業も多く、社員自身が市場価値向上を強く意識しています。
私自身、香港駐在時代に現地スタッフと働いた経験がありますが、会社負担での研修機会を非常に前向きに捉え、勤務後や休日にMBAや会計を学ぶ社員も多くいました。
片や我々日本人駐在員は、勤務後は接待やゴルフなどにいそしんでいました。
「学び続けなければ市場価値を維持できない」という意識の差は、日本企業と海外企業で大きな違いの一つだと感じています。
【3.教育を“投資”ではなく“コスト”として見ている】
欧米企業では、「人への投資は企業価値向上につながる」という考え方が一般的です。
一方、日本では教育費が「コスト(費用)」として扱われやすく、景気悪化時などに真っ先に削減されるケースも少なくありません。
しかし、人的資本経営が重視される現在、
・人財育成
・リスキリング
・リーダー育成
・組織能力向上
は、中長期的な企業価値そのものに直結するテーマです。 実際に、ATDなどの調査でも、高い教育投資を行う企業ほど、
・生産性向上
・離職率低下
・イノベーション創出
などの成果を出す傾向が示されています。
このままでは何が起きるのか
今後、日本企業の人財流動化はさらに進むと考えられます。
その中で、「人が育つ会社」と「育たない会社」の差はますます広がります。
教育投資不足が続くと、
・優秀人財の流出
・管理職の質量面での不足
・イノベーション低下
・生産性低下
・国内外での企業競争力低下
などにつながる可能性があります。
さらに、投資家や経営陣からも、「人的資本投資は本当に成果につながっているのか?」という説明責任が求められる時代になっています。
対策(案):教育を“コスト”ではなく“投資”としてとらえる
では、企業は何を変えるべきでしょうか。
重要なのは、「教育をコストではなく、投資としてマネジメントする」という視点です。
弊社が提携している、研修設計・効果測定の世界的権威であるジャック・フィリップス博士の「ROI Methodology®(ROIメソッド)」は、その実践的なフレームワークです。
ROIメソッドでは、教育効果を以下の5段階で測定します。
【レベル1】満足度
【レベル2】学習
【レベル3】行動変容・実践
【レベル4】ビジネスインパクト
【レベル5】ROI(投資対効果)
多くの企業では、レベル1(満足度)やレベル2(学習)で止まっています。
しかし、本当に重要なのは、
「学んだことが現場で実践されたか」
「ビジネス成果につながったか」
です。
例えば、
・事業プラン研修後に新規事業の立ち上げや既存事業の拡大があったか
・管理職研修後に離職率が改善したか
・AI研修後に生産性が向上したか
などを定量・定性の両面で可視化していく必要があります。
もちろん、すべての研修で厳密なROI測定を行う必要はありません。 しかし、
・経営課題に直結する研修
・投資額の大きい研修
・次世代リーダー育成
・営業力強化
などについては、設計段階から「どのような成果につなげるのか」を明確にすることが重要です。
自社の教育設計・投資と効果測定にご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
ROI Institute Japan URL:https://roi.eqpartners.com/roiinstitute-japan
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EQパートナーズ株式会社 代表取締役社長
ROI Institute Japan CEO 安部哲也
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