「リベラルアーツ(教養)の身につけ方、使い方」公開セミナー報告
「リベラルアーツ(教養)の身につけ方、使い方」公開セミナー 講師 : 高橋幸輝氏
2023年3月7日に開催したEQパートナーズ主催の公開セミナーについてご報告いたします。
セミナーの内容
安部哲也(EQパートナーズ代表取締役)より
新型コロナウイルス感染症流行やデジタル化、国際紛争など、経営のフレームワークを用いても判断の難しい状況が起こっています。
だからこそ、リベラルアーツのように幅広い知見が ないと、現状を捉えたり判断したりすることが難しくなっていると思います。
高橋幸輝様のご講演
講師紹介
南カリフォルニア大学を卒業し、英米文学・批評理論、国際政治経済学、哲学等を修められました。
2001年より「黎明の会」を主宰し、テーマに政治・外交・経済・金融・経営・文化等をおいたディスカッションを行われています。また2009年より、世界の名作を読む「文学サロン」も開催されています。
現在は、企業のM&A戦略・ブランド構築・経営戦略のアドバイスをする株式会社インシィンクの代表取締役を務められています。また、2021年にバイオベンチャーであるCFS株式会社を設立し、代表に就任されました。
リベラルアーツとは?
リベラルアーツの源流は、ラテン語の「Artes Liberals(アルテス リベラルス)」にあります。ギリシャを起源にしており、意味は「人を自由にする学問」を指します。奴隷という身分差別のあった時代において、人として認められるための学問という意味合いを持っていました。
「リベラル」は、豊富なという意味を持ち、また「アーツ(Artの複数形)」は、学問という意味を持ちます。そのためリベラルアーツは、豊富な学問・教養となりました。
リベラルアーツの大元は、「自由七科」にあります。自由七科は、3学(文法、修辞、弁証法)と4科(算数、幾何、天文学、音楽)です。3学は基礎であり、その応用として学ぶものが4科でした。これら7つの科目を修めた人だけが、神学を学ぶ権利を与えられます。この頃は神様がトップであったため、神学を学ぶためには自由七科を修めることが求められ、当時の教養でもありました。
そして、今も昔も変わらないリベラルアーツの前提が、「職業人・専門人の前に、優れた人間であるべし」です。優れた人間を育てるための土壌が、リベラルアーツの基礎にあります。経営において人間教育が大事だと言われることもありますが、その時には自由七科のように基礎的なところから学び直し、社会・世界を捉え直そうとする姿勢が大切です。
現代のリベラルアーツとは?
ギリシャ・ローマ時代と現代のリベラルアーツには、今も昔も変わらない普遍的な点もありますが、違うところもあります。そこで、現代のリベラルアーツについてまとめてみました。
現代のリベラルアーツの目的は、「Good Thinker=良い思考者」をつくることです。
失敗も成功も、必ずプロセスがあります。そのプロセスをどこまで考え抜けるかは、教養のなせる技です。結果に至るまでの過程で考え抜くため、考える癖づけやフレームワークを与えることが、リベラルアーツの最も重要なポイントになります。
そして、今のリベラルアーツの中身を4つ挙げました。
哲学:不確実性の軸探し、普遍的な共通価値の希求
例えば、「よい経営」をどう定義するでしょうか。利益、売上、人数規模など定義はバラバラだと思います。その中で「よい経営」の共通項を探し、自社に反映させ、分析していくことは、哲学的思考です。普遍的な価値を希求する際に、哲学は非常に良いツールになります。
歴史学:温故知新、積み重ねは、現代を理解する実用品である
歴史が時間の積み重ねだとすると、歴史は、現代を理解するための実用品です。
どうしたら織田信長と同じミスをせずに済むのか、どうしたら徳川のように長期政権を持てるのか、歴史から知ることができます。歴史の再現性は極めて低いですが、似たことは起こります。だから、歴史を見ることで、ミスを減らすことが可能になると思います。
先の見えない決断をする企業のリーダーにとって、唯一頼れる過去を活用することは、非常に有益です。
文学:人間理解と追体験、より記憶に残りやすい
人間の感情的な面は、古今東西昔から変わっていないと思います。そして文学は、親近感を持ちながら、人間を理解することができます。例えばシェイクスピアの『マクベス』や『リチャード三世』では、人間の持つ「妬む」という感情や、妬み方を間違えると野心が生まれ、それによって身を滅ぼすことについて描かれます。
文学や落語を通すと、記憶に残りやすいものです。その典型が、昔話です。昔話には、必ず教訓があります。子どもたちには、その教訓をエピソードとして記憶に残りやすい形で教えられるのです。
文学は、エピソードを通した追体験によって、普遍的な価値や人間に対する理解を促進させることができます。落語や映画もエピソードですので、良いと思います。
経済学:生産と分配を理解する
経済学を学ぶことは、「生産と分配を理解すること」であり、この中に経営学も入ると思います。経済学で学ぶべきことには、豊かさとは何か?格差の克服はどうしたら良いのか?幸福とは何か?があります。
過去の経済学者は皆、生産と分配について語っています。そして生産と分配は、格差や豊かさに繋がっていきます。
以上が、私の考える現代のリベラルアーツです。
リベラルアーツの使い方
リベラルアーツの使い方は、2つです。
1つは、「正解のない問題へのアプローチ」です。
例えば、エネルギー問題。原子力発電を悪いと言うこともできますが、昨今のエネルギー価格高騰を見れば、原子力発電を良いと捉えることもできます。洋上風力発電も、良い面だけではありません。価格や、風景を壊す問題を抱えます。適切な発電方法の割合について、誰も正解を持ちません。エネルギー問題は、歴史的・経済的・倫理的など色々な側面を踏まえて考える必要があり、教養がなせる技なのです。
正解のない問題には、新規事業もあります。新しいことをやるにしても、何をやれば良いかは誰にもわかりません。この時必要なのは、スキルや好き嫌いを超えた発想力です。これが、リベラルアーツの使い方の2つ目「発想結合」に繋がります。
成熟した経済では、発想を結合させて新しいものを生むしかないと思います。そのような時代で必要なのは、幅広く知識や経験を持っている文系の発想です。その発想を具現化するためには、理系が重要になります。
面白い発想をした企業の一つが、ダイキンです。ダイキンでは、iPhoneの表面のコーティングを担っており、稼ぎ頭になっています。これは、「自分の技術を、どうしたら他のところで活かせるか?」という発想の結合です。エンジニア発想では出にくく、文系発想から生まれるものだと思います。
このような意味でのリベラルアーツの使い方が、「発想結合」です。リベラルアーツは非常に裾野が広いため、未来の可能性をつくる学問だと思います。
まとめ:結局リベラルアーツとは?
ポイントは、3つあります。
1つ目は、「実は無駄の積み重ね」ということです。大事なことは、無駄に対して費やせる余裕があるか、そして、無駄を無駄と思わずに活かし方を考えることです。
2つ目は、「1回覚えて忘れた状態」であるということです。聞いたことがあるだけでアンテナは立ち、そこから可能性が出てきます。
3つ目は、「世の中のことを考え続ける姿勢、生き方」であること。これが最も重要です。どの企業も、より良い社会をつくることを目指します。では、何を以て「良い」と判断するのでしょうか。その基準をしっかり考えることが、非常に教養的な生き方であり、教養的な経営だと考えます。
リベラルアーツ プログラム内容事例
最後に、リベラルアーツのプログラム内容をご紹介します。
こちらは、3時間研修の例です。哲学・文学の切り口から、それぞれ講座が開催されました。
どちらの講座も、「リベラルアーツとは何か」の総論から始まります。
哲学では、日本の哲学者として世阿弥を、他にはマルクス等を挙げながら、「哲学をどう経営・人生に活かしていくか」というグループディスカッションを行いました。
また文学では、シェイクスピアの『マクベス』や『リア王』を通して、シェイクスピアが描く人間心理のすごさについてお話ししました。日本の文学としては川端康成を挙げ、日本文化の特性や川端康成がノーベル賞を獲った理由について取り上げました。文学でも、グループディスカッションを挟みながら進みます。
今回ご紹介した研修は一例ですので、ご希望があれば、他の哲学者や文学作品の観点からお話しすることも可能です。
最後に(EQパートナーズより)
リベラルアーツについて源流から現代のあり方まで幅広くお話いただき、またリベラルアーツの活かし方についても実例とともに大変わかりやすくご講演いただきました。高橋様、ありがとうございました。
EQパートナーズでは、皆様のご関心が高いと思われるテーマについて、随時、公開セミナーを開催しております。
また、EQパートナーズとして高橋講師の研修を行うことも可能ですので、ご希望等ありましたらお問い合わせいただけましたら幸いです。
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